水銀中毒
概要
水銀中毒は水銀またはその化合物の体内蓄積により、神経系を中心とした多臓器障害をきたす中毒性疾患。急性・慢性の経過があり、曝露経路や化学形態によって症状や重症度が異なる。職業曝露や魚介類摂取、医療・工業事故などが原因となる。
要点
- 神経症状(振戦・感覚異常・精神症状)が特徴的
- 消化器・腎・呼吸器障害も併発しうる
- 診断は曝露歴と血中・尿中水銀濃度測定が重要
病態・原因
水銀は無機水銀・有機水銀・単体水銀の3形態で存在し、経口・吸入・経皮などで体内に取り込まれる。有機水銀は神経毒性が強く、無機水銀や蒸気は腎障害や呼吸器障害を引き起こす。慢性暴露は主に職業性や魚介類摂取による。
主症状・身体所見
振戦、感覚異常、記憶障害、不眠、情緒不安定などの中枢・末梢神経症状が主。口腔粘膜炎、歯肉炎、腹痛、下痢、腎障害、蛋白尿、重症例では呼吸困難や肺炎もみられる。小児や胎児では発達障害や知的障害を生じることがある。
検査・診断
| 検査 | 所見 | 補足 |
|---|---|---|
| 血中・尿中水銀濃度 | 高値 | 診断の決め手となる |
| 頭部MRI/CT | 脳萎縮、白質病変など | 神経症状が強い場合に施行 |
水銀曝露歴の聴取が不可欠であり、臨床症状と水銀濃度の上昇をもって診断する。急性中毒では消化管炎症や腎障害、慢性中毒では神経画像で異常を認めることがある。
治療
- 第一選択:キレート剤(D-ペニシラミン、DMPS、DMSAなど)の投与
- 補助療法:対症療法(補液、消化管保護、精神症状への対応など)
- 注意点:曝露源の除去と再曝露防止、重症例では長期経過観察が必要
鑑別・比較
| 疾患 | 見分けるキーポイント | 検査差異 |
|---|---|---|
| 鉛中毒 | 貧血・腹部疝痛・鉛線 | 血中鉛高値、尿中ALA上昇 |
| ヒ素中毒 | 消化器症状・皮膚色素沈着・Mees線 | 血中/尿中ヒ素高値 |
| 有機リン中毒 | 縮瞳・流涎・筋線維束攣縮 | コリンエステラーゼ低下 |
補足事項
日本では水俣病が有名な有機水銀中毒の例である。慢性暴露の場合、症状が非特異的で見逃されやすい。魚介類摂取に伴うメチル水銀のリスクにも注意する。