有機リン中毒
概要
有機リン中毒は、農薬や殺虫剤などに含まれる有機リン化合物の曝露により生じる急性中毒である。主にコリンエステラーゼ阻害作用による神経伝達異常が特徴で、全身性のコリン作動性症候群を引き起こす。適切な初期対応と特異的治療が予後を左右する。
要点
- コリンエステラーゼ阻害によるアセチルコリン過剰が主病態
- ムスカリン・ニコチン症状と中枢神経症状が混在
- 迅速な除染と解毒剤投与が治療の鍵
病態・原因
有機リン化合物はコリンエステラーゼを不可逆的に阻害し、アセチルコリンが神経終末に蓄積することで、過剰なコリン作動性刺激が生じる。農薬散布や誤飲、意図的摂取などによる曝露が主な原因である。
主症状・身体所見
縮瞳、流涎、流涙、発汗、気道分泌増加、気管支痙攣、徐脈、下痢、嘔吐などのムスカリン症状と、筋線維束攣縮、筋力低下、呼吸筋麻痺などのニコチン症状がみられる。重症例では意識障害やけいれんも出現する。
検査・診断
| 検査 | 所見 | 補足 |
|---|---|---|
| 血清コリンエステラーゼ | 著明な低下 | 重症度評価・診断の指標 |
| 動脈血液ガス分析 | 呼吸性アシドーシスまたは低酸素血症 | 呼吸筋麻痺の評価 |
| 心電図 | 徐脈、QT延長、伝導障害 | ムスカリン作用による変化 |
コリンエステラーゼ活性の低下が診断の決め手となる。曝露歴や臨床症状の組み合わせで診断され、呼吸機能や意識レベルのモニタリングも重要となる。
治療
- 第一選択:アトロピン静注、パム(PAM)静注
- 補助療法:気道確保、人工呼吸管理、除染(皮膚洗浄・衣服交換)
- 注意点:再曝露防止、治療中のコリンエステラーゼ活性モニタリング
鑑別・比較
| 疾患 | 見分けるキーポイント | 検査差異 |
|---|---|---|
| カルバメート中毒 | 類似症状だがコリンエステラーゼ阻害は可逆的 | コリンエステラーゼ活性の回復が早い |
| アトロピン中毒 | 口渇・頻脈・散瞳など逆の症状 | コリンエステラーゼは正常 |
補足事項
有機リン中毒では遅発性神経障害(OPIDN)や中間症候群(IMS)にも注意が必要である。初期治療の遅れが致命的となるため、疑った時点で治療を開始することが推奨される。