ヒ素中毒
概要
ヒ素中毒は、ヒ素化合物の摂取または吸入によって生じる急性または慢性の中毒症候群である。消化器症状や神経症状、皮膚症状など多彩な臨床像を呈し、重症例では多臓器不全に至ることもある。慢性中毒では皮膚の色素沈着や悪性腫瘍のリスクが高まる。
要点
- 急性では消化器・神経症状が中心
- 慢性では皮膚症状や発癌リスクが問題
- 診断には曝露歴と尿中ヒ素測定が重要
病態・原因
ヒ素は無機・有機化合物として存在し、殺虫剤、鉱業、井戸水などから経口・経気道的に体内に取り込まれる。細胞内で酵素活性阻害や酸化ストレスを引き起こし、多臓器障害を生じる。慢性曝露ではDNA損傷や発癌促進作用も認められる。
主症状・身体所見
急性中毒では悪心・嘔吐・下痢・腹痛などの消化器症状、ショック、QT延長などの心電図異常、意識障害や末梢神経障害が出現する。慢性中毒では皮膚の色素沈着・脱色素斑、掌蹠角化症、Mees線(爪の白色横線)、四肢末端の感覚障害が特徴的である。
検査・診断
| 検査 | 所見 | 補足 |
|---|---|---|
| 尿中ヒ素測定 | ヒ素濃度上昇 | 曝露後数日間有用 |
| 血液化学検査 | 肝腎機能障害、電解質異常、貧血など | 多臓器障害の評価 |
| 心電図 | QT延長、T波変化 | 急性中毒時の心毒性評価 |
| 皮膚・爪の観察 | 色素沈着、Mees線、角化症 | 慢性中毒の特徴的所見 |
診断は曝露歴の確認と尿中ヒ素濃度の測定が中心となる。急性では消化器症状と心電図異常、慢性では皮膚症状や神経症状が診断の手がかりとなる。慢性の場合、皮膚生検や毛髪・爪中ヒ素測定も参考となる。
治療
- 第一選択:キレート剤(ジメルカプロール、D-ペニシラミンなど)の投与
- 補助療法:輸液、電解質補正、対症療法、重症例では血液浄化
- 注意点:曝露源の除去と再曝露防止、慢性例では発癌リスク管理
鑑別・比較
| 疾患 | 見分けるキーポイント | 検査差異 |
|---|---|---|
| 鉛中毒 | 貧血と腹部疝痛、鉛線、神経障害 | 血中・尿中鉛上昇 |
| 水銀中毒 | 振戦、精神症状、口腔炎、腎障害 | 尿中水銀上昇 |
| 急性腸炎 | 発熱や感染徴候、消化器症状中心 | 便培養陽性 |
補足事項
ヒ素中毒は発展途上国の地下水汚染による集団発症が社会問題となっている。日本でも過去に薬害や環境汚染による集団中毒が発生した。慢性曝露では皮膚癌や内臓悪性腫瘍の発症リスクが長期間持続するため、長期フォローが重要である。