バソプレシン不適合分泌症候群
概要
バソプレシン不適合分泌症候群(SIADH)は、抗利尿ホルモン(バソプレシン)が不適切に分泌されることで低ナトリウム血症と低浸透圧血症をきたす疾患である。腫瘍や中枢神経疾患、薬剤など多様な原因が存在する。水分制限により治療を行うことが一般的である。
要点
- 抗利尿ホルモン(バソプレシン)の過剰分泌が主因
- 低ナトリウム血症・低浸透圧血症が特徴
- 原因検索と水分制限が治療の基本
病態・原因
バソプレシンの分泌が浸透圧とは無関係に持続することで、腎集合管での水再吸収が亢進し、希釈性低ナトリウム血症を生じる。原因は肺小細胞癌などの腫瘍、中枢神経疾患、薬剤(抗うつ薬・抗てんかん薬など)、手術やストレスなど多岐にわたる。
主症状・身体所見
無症状から倦怠感、食欲低下、悪心・嘔吐、意識障害、痙攣などの神経症状まで幅広い。重度の低ナトリウム血症では意識障害や痙攣を認めることがある。
検査・診断
| 検査 | 所見 | 補足 |
|---|---|---|
| 血清ナトリウム | 低値(<135 mEq/L) | 低ナトリウム血症が必須 |
| 血清浸透圧 | 低値(<275 mOsm/kg) | 希釈性低浸透圧血症 |
| 尿中ナトリウム | 高値(>20 mEq/L) | 腎からのナトリウム排泄持続 |
| 尿浸透圧 | 高値(>100 mOsm/kg) | 尿が濃縮されている |
診断は低ナトリウム血症・低浸透圧血症とともに、腎・副腎・甲状腺機能正常、体液過剰の所見がないこと、尿中ナトリウム・尿浸透圧高値を確認し、他疾患を除外して行う。画像検査で腫瘍や中枢神経疾患の検索も重要。
治療
- 第一選択:水分制限(1日800~1000 mL程度)
- 補助療法:バソプレシン受容体拮抗薬(トルバプタンなど)、高張食塩水投与(重症例)
- 注意点:急速なナトリウム補正は橋中心髄鞘崩壊症のリスクあり
鑑別・比較
| 疾患 | 見分けるキーポイント | 検査差異 |
|---|---|---|
| 中枢性尿崩症 | 多尿・高ナトリウム血症・低尿浸透圧 | 血清Na高値、尿浸透圧低値 |
| 心因性多飲症 | 水分多飲の既往・尿浸透圧低値 | 尿浸透圧低値、血清Na低値 |
| 低ナトリウム血症 | 原因が多彩(心不全・肝硬変等) | 体液量異常、尿中Na低値 |
補足事項
SIADHは高齢者や薬剤使用患者で特に注意が必要であり、原因検索とともに急激な補正を避ける管理が重要となる。慢性経過例では症状が乏しいこともある。