乳頭筋断裂
概要
乳頭筋断裂は心筋梗塞などの虚血性心疾患を背景に、左心室内の乳頭筋が断裂し、急性の重症僧帽弁閉鎖不全症を来す致死的な疾患である。突然の心不全症状やショックを呈し、迅速な診断と治療が必要となる。
要点
- 急性心筋梗塞後の重篤な合併症
- 急速な肺水腫や心原性ショックを引き起こす
- 緊急外科治療が予後改善に必須
病態・原因
主な原因は心筋梗塞、とくに後下行枝や回旋枝領域の梗塞による乳頭筋への虚血性壊死である。高齢者や糖尿病患者に多く、心筋の脆弱化が発症リスクとなる。断裂により僧帽弁の支持が失われ、急性僧帽弁閉鎖不全症を発症する。
主症状・身体所見
急激な呼吸困難、著明な肺水腫、起坐呼吸、頻脈、低血圧が出現する。聴診上は新たに出現した収縮期雑音やIII音、急性心不全徴候が重要な身体所見となる。
検査・診断
| 検査 | 所見 | 補足 |
|---|---|---|
| 心エコー | 僧帽弁逸脱・乳頭筋の断裂像、急性MR | ドプラで逆流評価 |
| 胸部X線 | 急性肺水腫像 | 心拡大は目立たないことも多い |
| 心電図 | 心筋梗塞所見(Q波、ST上昇など) | 虚血性心疾患の証明 |
心エコーが診断の中心であり、乳頭筋断裂や僧帽弁逆流の可視化が決定的となる。心電図や心筋逸脱酵素で急性心筋梗塞の合併を確認することが多い。
治療
- 第一選択:緊急外科手術(僧帽弁置換術または形成術)
- 補助療法:IABP補助循環、強心薬、利尿薬、酸素投与
- 注意点:手術前の循環動態安定化、適切なタイミングでの手術介入
鑑別・比較
| 疾患 | 見分けるキーポイント | 検査差異 |
|---|---|---|
| 心室中隔穿孔 | 心尖部収縮期雑音、右心負荷増大 | エコーで中隔欠損を確認 |
| 急性心不全 | 雑音を伴わないことが多い | 逆流や断裂像は認めない |
| 急性僧帽弁逸脱症 | 断裂なく逸脱のみ | 乳頭筋断裂像なし |
補足事項
乳頭筋断裂は発症から死亡までが極めて短いことが多いため、心エコーによる迅速診断と外科的治療の連携体制が重要である。保存的治療のみでは予後不良となる。