トリクロロエチレン中毒
概要
トリクロロエチレン中毒は、工業用溶剤であるトリクロロエチレンの吸入や経口摂取、皮膚吸収によって生じる急性または慢性の中毒状態。主に中枢神経抑制作用や肝障害、心毒性を呈し、重症例では致死的となる場合がある。労働現場や事故、意図的摂取が原因となる。
要点
- 中枢神経抑制症状と肝障害が主な臨床像
- 揮発性有機溶剤として吸入・経皮・経口で中毒を生じる
- 重症例では致死的不整脈や多臓器障害に注意が必要
病態・原因
トリクロロエチレンは脂溶性が高く、吸入・経皮・経口で容易に体内へ吸収される。肝臓で代謝される過程で有害な代謝物が産生され、中枢神経抑制、肝細胞障害、心筋への感作作用を引き起こす。職業曝露や事故、意図的な摂取が主なリスク因子である。
主症状・身体所見
初期には頭痛、めまい、酩酊感、悪心・嘔吐、歩行障害など中枢神経抑制症状が現れる。重症化すると意識障害、痙攣、呼吸抑制、不整脈、肝腫大や黄疸など肝障害所見がみられる。皮膚や粘膜への刺激症状も生じる。
検査・診断
| 検査 | 所見 | 補足 |
|---|---|---|
| 血液生化学検査 | 肝酵素上昇、代謝性アシドーシス | 肝障害・全身状態評価 |
| 心電図 | 不整脈、QT延長 | 心筋感作作用の評価 |
| 血中・尿中トリクロロエチレン | 検出・定量 | 暴露・中毒の直接証明 |
中毒の診断は暴露歴と臨床症状をもとに行い、血中・尿中トリクロロエチレン濃度の測定が確定診断となる。重症例では肝障害や心毒性の評価も重要。画像診断は主に合併症評価目的で行う。
治療
- 第一選択:曝露中止と新鮮空気への移動、対症療法
- 補助療法:酸素投与、点滴、肝保護薬、必要に応じて人工呼吸管理
- 注意点:心毒性による不整脈、肝不全、多臓器障害の早期発見と対応
鑑別・比較
| 疾患 | 見分けるキーポイント | 検査差異 |
|---|---|---|
| トルエン中毒 | 似た中枢神経抑制だが腎障害主体 | 尿中馬尿酸増加、腎機能障害 |
| 四塩化炭素中毒 | 肝障害がより重篤 | 肝酵素著明上昇、腎障害も合併 |
補足事項
慢性曝露では神経障害や発癌性も報告されており、労働衛生管理が重要となる。急性中毒では心停止や呼吸抑制のリスクが高いため、救急対応が必須である。