熱傷患者の重症度はどう評価するか

このノートは研修医教育のための一般的整理であり、個別患者への診断・治療指示ではありません。緊急性が高い、判断に迷う、施設方針が関わる場合は上級医・救急科・形成外科・熱傷専門施設に相談してください。

クリニカルクエスチョン

熱傷患者を診たとき、熱傷面積、深達度、部位、気道損傷、年齢、基礎疾患から、搬送・入院・専門施設相談の必要性をどう判断するか。

まず結論

  • 重症度は 面積だけで決めない。最初にABCDEで生命危機を拾い、次に「II度以上の%TBSA」「深達度」「重要部位」「気道損傷」「特殊熱傷」「患者背景」を並列に評価する [1,2,5]。
  • 面積評価ではI度熱傷を%TBSAに含めず、II度以上を数える。成人の中等度から広範囲熱傷は9の法則、小児や精密評価はLund-Browder、散在・小範囲は手掌法を使う [1,6,7]。
  • 専門施設相談を急ぐ目安は、成人の部分層熱傷10%以上、全層熱傷、顔・手・足・会陰・大関節の深い熱傷、気道損傷疑い、化学損傷、電撃傷、外傷合併、基礎疾患、小児・高齢者である [1,5]。
  • 日本熱傷学会2021版では、従来のArtz基準としてII度30%TBSA以上、III度10%TBSA以上、顔・手・足のIII度、気道損傷、外傷合併、電撃傷を重症熱傷として示す一方、ABLS/ABAはII度10%TBSA超から熱傷センター紹介を考える [1,5]。
  • 気道損傷は「口腔・咽頭の煤、嗄声、ラ音、顔面熱傷、閉鎖空間での煙吸入」などで疑い、気管支鏡やCTは有用だが、単独で重症度を確定するものではない [1]。
  • 日本での注意: 日本皮膚科学会2023版は軽症を含む一般診療、日本熱傷学会2021版は入院を要する重症熱傷を主対象にする。外用薬や破傷風対応はPMDA添付文書と施設プロトコルに沿って確認する [1,2,4]。

熱傷重症度評価の6つの軸

判断の型

  1. 先にABCDE: 気道、呼吸、循環、意識、低体温を評価し、不安定なら面積計算より蘇生・応援要請を優先する。
  2. II度以上の面積を見積もる: I度の発赤だけの部分は含めない。成人は9の法則、小児はLund-Browder、散在する小熱傷は患者の手掌を目安にする [1,6,7]。
  3. 深さを仮判定し、再評価前提にする: 浅達性II度は湿潤・疼痛・水疱、深達性II度は蒼白・痛み低下、III度は革様・白色/褐色/黒色・知覚低下を目安にする。受傷直後は過小評価も過大評価も起こる [1,5]。
  4. 部位を確認する: 顔面、手、足、会陰、外陰部、大関節、全周性四肢・胸郭は、面積が小さくても機能障害や循環・換気障害のリスクとして扱う [1,5]。
  5. 気道損傷・特殊熱傷を別枠で拾う: 煙吸入、嗄声、煤、顔面熱傷、閉鎖空間火災、化学損傷、電撃傷、外傷合併は、皮膚面積とは独立して高リスクである [1,5]。
  6. 患者背景で閾値を下げる: 小児、高齢者、妊娠、糖尿病、免疫不全、心肺腎疾患、抗凝固薬、独居・セルフケア困難では、少面積でも入院・専門相談を考える [1,5]。

初期対応

  • 安全確保: 熱源、煙、化学物質、電気、救助者安全を確認する。化学損傷は原因物質と曝露時間を確認し、除染・洗浄を施設手順で進める。
  • 冷却と保温を両立する: 小範囲のI度・II度は流水で冷却する。広範囲熱傷では過冷却で低体温になりやすく、冷却し続ける範囲と時間に注意する。日本赤十字社は広範囲の冷却を10分以上続けることを避け、特に小児・高齢者で低体温に注意するとしている [3]。
  • 衣類・装身具: 付着していない衣類、指輪、時計は早めに外す。皮膚に固着した衣類は無理に剥がさない。
  • 清潔被覆: 水疱を不用意につぶさず、清潔な布やドレッシングで覆う。軟膏・油・消毒薬を自己判断で塗り込まない。
  • 疼痛、破傷風、再評価: 鎮痛、破傷風ワクチン歴、バイタル、尿量、末梢循環、疼痛の変化を再評価する。輸液、挿管、減張切開、手術適応は上級医と施設方針で決める。

熱傷初期評価アルゴリズム

鑑別・見逃し

優先度見逃したくない状況なぜ重要か手がかり
気道損傷皮膚所見が軽くても遅れて気道浮腫・呼吸不全に進むことがある閉鎖空間火災、煙吸入、顔面熱傷、鼻毛焦げ、煤、嗄声、咳、喘鳴、SpO2低下
全周性四肢熱傷浮腫で末梢循環障害を起こす強い腫脹、疼痛増悪、冷感、しびれ、毛細血管再充満遅延、脈拍低下
全周性胸郭熱傷焼痂で換気が制限される胸郭拡張不良、努力呼吸、換気量低下
化学損傷・電撃傷表面所見より深部損傷が強いことがある原因物質、曝露時間、通電経路、意識消失、不整脈、筋肉痛、外傷合併
虐待・自傷・ネグレクト再受傷リスクと社会的介入が必要受傷機転が不自然、境界明瞭な浸漬熱傷、受診遅延、多発外傷
低温熱傷小さく見えて深いことがある湯たんぽ、カイロ、電気毛布、長時間圧迫

検査

検査目的注意点
バイタル、SpO2、意識、体温ABCDEと低体温の評価SpO2だけでは一酸化炭素中毒を除外できない
%TBSAの記録輸液・入院・搬送判断I度は含めない。小児では成人の9の法則をそのまま使わない
血液ガス、乳酸、COHb煙吸入、一酸化炭素中毒、循環不全の評価閉鎖空間火災では早めに検討する
CBC、生化学、凝固、CK、尿検査広範囲熱傷、電撃傷、外傷合併、腎障害評価電撃傷では横紋筋融解と不整脈を意識する
胸部X線・CT、気管支鏡気道損傷や合併外傷の評価日本熱傷学会は気管支鏡や胸部CTが用いられるが、単独で確定的な重症度指標はないとしている [1]
心電図電撃傷、意識消失、不整脈、胸部症状高電圧、落雷、失神、胸痛ではモニターを考える

治療・マネジメント

  • 専門相談のトリガー: ABAの紹介基準では、全層熱傷、部分層熱傷10%TBSA以上、顔・手・足・外陰部・会陰・関節の深い熱傷、気道損傷疑い、化学損傷、電撃傷、高電圧、外傷合併、基礎疾患、小児などが相談・転送検討に挙がる [5]。
  • 日本での搬送判断: 日本熱傷学会2021版は、Artz基準としてII度30%TBSA以上、III度10%TBSA以上、顔・手・足のIII度、気道損傷、軟部組織損傷・骨折合併、電撃傷を重症熱傷として示している。一方で、同じ箇所でABLS/ABAの10%TBSA超紹介基準も紹介しており、地域の熱傷診療体制に合わせた早期相談が現実的である [1]。
  • 輸液: 広範囲熱傷ではParkland式などで初期量を見積もるが、尿量や循環動態で調整する。過剰輸液は肺水腫や腹部コンパートメント症候群につながりうるため、式は開始点であり固定量ではない [1,6]。
  • 気道: 進行する顔面・咽頭浮腫、嗄声、喘鳴、呼吸仕事量増大、意識障害、広範囲顔面熱傷では、挿管困難化の前に上級医・麻酔科・救急科へ相談する。
  • 局所治療: 創部は清潔に覆い、疼痛を抑え、感染徴候と深達度変化を再評価する。外用薬は熱傷の深さ、感染リスク、疼痛、禁忌を踏まえ、施設プロトコルに従う。
  • 日本での薬剤注意: スルファジアジン銀(ゲーベンクリーム1%)はPMDA添付文書上、外傷・熱傷などの二次感染に適応がある一方、軽症熱傷、低出生体重児・新生児、サルファ剤過敏症では禁忌・注意がある。軽い熱傷に漫然と塗る薬ではない [4]。

図解

熱傷重症度評価の6つの軸

熱傷初期評価アルゴリズム

専門施設へ相談するサイン

指導医に確認するポイント

  • この患者は「外来でよい軽症」か、「入院・専門施設相談が必要」か。
  • %TBSAの見積もりにI度を含めていないか。小児で成人の9の法則を誤用していないか。
  • 顔面・手・足・会陰・関節・全周性など、面積以外で重く見る部位がないか。
  • 気道損傷、CO中毒、化学損傷、電撃傷、外傷合併をどう除外・評価するか。
  • 輸液開始、尿量目標、鎮痛、破傷風対応、局所治療、搬送先選定を誰が最終判断するか。
  • 小児、高齢者、妊娠、糖尿病、免疫不全、独居などで入院閾値を下げるべきか。

患者説明

  • 「やけどは広さだけでなく、深さ、場所、煙を吸った可能性、年齢や持病で重症度が変わります。」
  • 「赤いだけの浅いやけどは面積計算に含めませんが、水ぶくれ以上の部分は広さを測って、点滴や入院が必要か判断します。」
  • 「顔、手、足、陰部、関節、ぐるっと一周するやけどは、面積が小さくても後遺症やむくみに注意が必要です。」
  • 「煙を吸っている可能性がある場合、あとから喉が腫れたり呼吸が悪くなることがあるため、慎重に観察します。」
  • 「自己判断で軟膏、油、消毒薬を塗ると評価や治療の妨げになることがあります。医療者が創を確認してから処置を決めます。」

ピットフォール

  • I度熱傷を%TBSAに含めて、重症度や輸液量を過大評価する。
  • 小児に成人の9の法則をそのまま使う。
  • 顔面熱傷が軽く見えるため、煙吸入・嗄声・煤を見落とす。
  • 全周性熱傷の末梢循環障害や胸郭拘束を再評価しない。
  • 電撃傷・化学損傷を「皮膚の見た目が小さいから軽い」と判断する。
  • 広範囲熱傷を冷やし続けて低体温にする。
  • 軽症熱傷にスルファジアジン銀などを漫然と使用し、禁忌や疼痛を確認しない。
  • 地域の搬送基準、熱傷専門施設の受け入れ体制、施設プロトコルを確認せず一人で抱える。

関連ノート

MOC更新候補

  • MOC|救急・初期対応 に「外傷・熱傷・中毒」配下の記事として追加候補。
  • MOC|外科・整形・皮膚.md(本サイト外) に皮膚外傷・熱傷の関連記事として追加候補。

参考文献

[1] 一般社団法人日本熱傷学会学術委員会. 熱傷診療ガイドライン〔改訂第3版〕. 熱傷. 2021;47(Supplement):S1-S108. https://doi.org/10.34366/jburn.47.Supplement_S1

[2] 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン策定委員会(熱傷グループ). 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン(2023)―6 熱傷診療ガイドライン(第3版). 日本皮膚科学会. 2024. https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/nessho2023.pdf

[3] 日本赤十字社. 熱傷(やけど). https://www.jrc.or.jp/study/safety/burn/

[4] PMDA. ゲーベンクリーム1% 医療用医薬品情報(一般名: スルファジアジン銀). https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/2633705N1031?user=1

[5] American Burn Association. Guidelines for Burn Patient Referral. https://www.ameriburn.org/burn-care-team/resources/guidelines-for-burn-patient-referral

[6] Hettiaratchy S, Papini R. Initial management of a major burn: II—assessment and resuscitation. BMJ. 2004;329:101-103. https://doi.org/10.1136/bmj.329.7457.101

[7] Moore RA, Popowicz P, Burns B. Rule of Nines. StatPearls. Updated 2024. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK513287/

更新ログ

  • 2026-04-27: 初版作成。日本熱傷学会、日本皮膚科学会、日本赤十字社、PMDA、ABA、BMJ、StatPearls、厚生労働省資料を確認。