腸閉塞を疑う腹痛では何を確認するか

このノートは研修医教育のための一般的整理であり、個別患者への診断・治療指示ではありません。緊急性が高い、判断に迷う、施設方針が関わる場合は上級医・外科・放射線科へ早期に相談してください。

クリニカルクエスチョン

腹痛、嘔吐、腹部膨満、排便・排ガス停止がある患者で、腸閉塞を疑ったときに研修医は何を確認し、どの所見で画像評価・外科相談へつなげるか。

まず結論

  • 腸閉塞を疑う腹痛では、最初に 不安定なバイタル、腹膜刺激、持続する強い痛み、発熱、頻脈、乳酸上昇、血便、意識低下 を確認する。これらは絞扼・虚血・穿孔・敗血症を示唆し、検査完了を待たず外科へ相談する根拠になる[1,2,4]。
  • 問診では、嘔吐の性状と頻度、腹部膨満、排便・排ガス停止、腹部手術歴、ヘルニア、悪性腫瘍、炎症性腸疾患、放射線治療歴、便秘、薬剤、妊娠可能性を短時間で拾う。術後癒着は小腸閉塞の重要な原因である[4]。
  • 身体診察では、腹部膨隆、蠕動音、圧痛の局在、反跳痛・筋性防御、ヘルニア門、手術瘢痕、脱水所見を反復評価する。初回診察が軽くても悪化しうるため、鎮痛後も再評価する[1,2]。
  • 画像は腹部X線だけで終わらせず、閉塞部位、原因、closed loop、腸管壁造影不良、腸間膜浮腫、腹水、free air などを評価する目的で、必要時に造影CTを検討する[3,5,6]。
  • 単純性の癒着性小腸閉塞が疑われ、虚血・穿孔・腹膜炎がなければ、絶食、輸液、電解質補正、制吐、減圧、反復診察で保存的にみる選択肢がある。ただし保存方針も外科と共有し、悪化時の手術判断を先に決めておく[4]。

腸閉塞を疑う腹痛の最初の確認

判断の型

  1. まず急ぐかを決める。 ABCDE、ショック、腹膜刺激、持続痛、発熱、頻脈、乳酸上昇を確認する。危険サインがあれば、蘇生、抗菌薬や手術適応の相談を含めて外科へ早くつなぐ[1,2,4]。
  2. 腸閉塞らしさを集める。 嘔吐、腹部膨満、排便・排ガス停止、間欠的疝痛、手術歴、ヘルニア、癌既往を確認する。痛みが間欠痛から持続痛へ変わる場合は絞扼を疑う。
  3. 閉塞の種類を考える。 機械的な通過障害を「腸閉塞」、閉塞機転のない麻痺性病態を「イレウス」と区別して考える。日本では混用されることがあるため、申し送りでは「機械的閉塞か、麻痺性か」を言葉で補う[1,2]。
  4. 画像で方針に必要な情報を取りに行く。 CTでは「閉塞点」「原因」「小腸か大腸か」「単純性か絞扼性か」「穿孔・虚血・腫瘍・ヘルニア」を見る[3,5,6]。
  5. 保存でよいかを外科と共有する。 保存的管理を選ぶ場合も、再診察間隔、減圧の方法、造影剤使用の可否、手術へ切り替える基準を明確にする[4,8,9]。

初期対応

  • 安全確保とABCDE: 嘔吐・誤嚥リスク、低酸素、循環不全、意識障害を先に確認する。反復嘔吐や高度膨満がある患者をCT室へ送る前に、吸引、酸素、静脈路、モニター、搬送体制を整える。
  • NPOと静脈路: 腸閉塞が疑わしければ経口摂取を止め、補液、電解質補正、腎機能確認を進める。低Cl性代謝性アルカローシス、低K血症、脱水を見落とさない。
  • 鎮痛・制吐: 鎮痛で診断ができなくなると考えて我慢させない。鎮痛後に腹膜刺激や持続痛が残るかを再評価する。
  • 減圧の検討: 反復嘔吐、胃拡張、高度膨満、誤嚥リスクがある場合は、胃管などの減圧を上級医・外科と相談する。挿入前後で気道リスクを確認する。
  • 早期共有: 絞扼、穿孔、閉塞性大腸癌、嵌頓ヘルニア、循環不安定が疑われる場合は、CTや採血結果を待たずに外科・救急上級医へ共有する[1,4]。

鑑別・見逃し

優先度疾患・病態見逃すと危ない理由手がかり
絞扼性腸閉塞・closed loop obstruction腸管虚血、壊死、穿孔へ進む持続痛、腹膜刺激、発熱、頻脈、乳酸上昇、CTでclosed loop・造影不良・腹水[4,6]
嵌頓ヘルニア閉塞と虚血を同時に起こす鼠径部・大腿部・腹壁瘢痕部の膨隆、圧痛、還納不能
腸管虚血・上腸間膜動脈閉塞初期診察が軽くても致命的痛みと身体所見の不釣り合い、心房細動、乳酸上昇、血便
消化管穿孔・汎発性腹膜炎手術・抗菌薬・蘇生が遅れる突然の激痛、板状硬、free air、敗血症所見[1,2]
閉塞性大腸癌・S状結腸軸捻転大腸閉塞は穿孔リスクを伴う高齢、便秘、体重減少、貧血、著明な大腸拡張
麻痺性イレウス機械的閉塞と管理が異なる術後、腹膜炎、電解質異常、オピオイド、敗血症、びまん性腸管拡張
急性胃腸炎・便秘腸閉塞を「胃腸炎」と誤認しやすい排便排ガス停止、腹部膨満、手術歴、局所的な拡張があれば再考する

検査

検査目的注意点
バイタル・尿量・再診察ショック、敗血症、脱水、虚血進行を拾う初回正常でも繰り返す。痛みの性質が持続痛へ変わるかを見る
血算、電解質、腎機能、肝胆膵酵素、CRP脱水、炎症、腎機能、鑑別疾患、造影CT可否の評価WBCやCRPが軽いだけで絞扼を否定しない
血液ガス、乳酸低灌流・虚血・敗血症の補助評価乳酸正常でも早期虚血は否定しきれない。トレンドを見る
腹部X線腸管拡張、鏡面像、free air、便貯留のスクリーニング腸閉塞の原因・虚血評価には限界がある。X線正常で終わらせない[5,6]
腹部超音波腸管拡張、蠕動、腹水、胆道・尿路・婦人科疾患の評価ガスで限界がある。CTを遅らせる理由にしない
造影CT閉塞点、原因、closed loop、腸管壁造影不良、腹水、穿孔、腫瘍、ヘルニアの評価腎機能、造影剤アレルギー、妊娠可能性、搬送安全性を確認し、必要性を上級医と判断する[3,5,6]
水溶性消化管造影剤癒着性小腸閉塞の通過予測や造影評価に使われることがある日本では添付文書上の禁忌、過敏反応、脱水・電解質異常、誤嚥リスクを確認する[7-9]

腸閉塞の見逃し・検査・治療アルゴリズム

治療・マネジメント

  • 絞扼・虚血・穿孔・腹膜炎が疑わしい場合: 蘇生、NPO、静脈路、輸液、必要時の抗菌薬、鎮痛、外科緊急相談を並行する。画像や採血がそろうまで相談を遅らせない[1,4]。
  • 単純性の癒着性小腸閉塞が疑われる場合: 虚血・穿孔・腹膜炎がなければ、絶食、輸液、電解質補正、減圧、鎮痛、制吐、反復診察による保存的管理が選択肢になる。ただし保存期間や手術移行基準は外科と決める[4]。
  • 大腸閉塞が疑われる場合: 閉塞性大腸癌、軸捻転、宿便、憩室炎狭窄などを考える。高度拡張や盲腸拡張、穿孔徴候があれば緊急性が高い。
  • ヘルニアを見つけた場合: 鼠径・大腿・腹壁瘢痕・臍を必ず触る。圧痛、皮膚発赤、還納不能、腸閉塞所見があれば外科へ早く相談する。
  • 日本での注意: 海外文献では「water-soluble contrast challenge」や Gastrografin が管理に組み込まれることがあるが、日本では PMDA 添付文書、施設プロトコル、誤嚥リスク、ヨード造影剤過敏歴、脱水・電解質異常を確認する。治療目的で漫然と投与するのではなく、外科・放射線科と目的を明確にする[7-9]。

図解

腸閉塞を疑う腹痛の最初の確認

腸閉塞の見逃し・検査・治療アルゴリズム

腸閉塞での患者説明と日本での注意

指導医に確認するポイント

  • この腹痛は、絞扼・虚血・穿孔・腹膜炎を疑って外科へ緊急相談する段階か。
  • CTは単純で足りるか、造影CTが必要か。腎機能、造影剤アレルギー、妊娠可能性、搬送リスクをどう扱うか。
  • 胃管・イレウス管・水溶性造影剤を使う目的は何か。誤嚥リスクと禁忌を確認したか。
  • 保存的にみる場合、再評価間隔、採血・画像の再検、手術へ切り替える基準は何か。
  • 大腸閉塞や閉塞性大腸癌が疑われる場合、外科、消化器内科、内視鏡、放射線科のどこへどの順番で相談するか。

患者説明

  • 「腸の中身が先へ進みにくくなり、腹痛、吐き気、嘔吐、お腹の張りが起きている可能性があります。」
  • 「血流が悪くなったり、腸に穴が開いたりするタイプを見逃さないため、診察、血液検査、画像検査を組み合わせて確認します。」
  • 「食事はいったん止め、点滴で水分と電解質を補います。吐き気や張りが強い場合は、胃や腸の内容を抜く管を使うことがあります。」
  • 「強い痛みが続く、発熱、冷汗、血便、ぐったりする、吐き気が悪化する場合は、手術を含めて外科と相談します。」

腸閉塞での患者説明と日本での注意

ピットフォール

  • 「腹部X線で典型的でない」だけで腸閉塞を否定する。
  • 術後癒着だけに決めつけ、嵌頓ヘルニア、閉塞性大腸癌、腸管虚血、穿孔を見落とす。
  • 間欠痛が持続痛へ変わった、鎮痛後も腹膜刺激が残る、頻脈や乳酸上昇が出た、という変化を再評価しない。
  • 鼠径部・大腿部・腹壁瘢痕部を診察せず、嵌頓ヘルニアを見逃す。
  • CT室へ送る前に、嘔吐・誤嚥、低血圧、酸素化、モニター、付き添いを確認しない。
  • 水溶性造影剤を「腸閉塞に効く薬」として扱い、禁忌、誤嚥、脱水・電解質異常、施設運用を確認しない。

関連ノート

関連ノート候補: 腹痛で外科疾患をどう見逃さないか救急外来でCTをいつ依頼するか腸管虚血を疑う腹痛では何を見るか

MOC更新候補

  • MOC|救急・初期対応
  • MOC|消化器.md(本サイト外)
  • 並列作業との競合を避けるため、このジョブではMOC本文の大規模更新は行わない。

参考文献

[1] 急性腹症診療ガイドライン2025改訂出版委員会 編. 急性腹症診療ガイドライン2025 第2版. 医学書院; 2025. https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/115447

[2] 小豆畑丈夫, 前田重信, 吉田雅博, 真弓俊彦. 急性腹症診療ガイドライン2015:初期診療アルゴリズムが目指すもの. 日本腹部救急医学会雑誌. 2017;37(4):551-557. https://doi.org/10.11231/jaem.37.551

[3] 日本医学放射線学会 編. 画像診断ガイドライン2021年版(第3版). 2021. https://www.radiology.jp/guideline/diagnostic_imaging_guideline.html

[4] ten Broek RPG, Krielen P, Di Saverio S, et al. Bologna guidelines for diagnosis and management of adhesive small bowel obstruction (ASBO): 2017 update. World J Emerg Surg. 2018;13:24. https://doi.org/10.1186/s13017-018-0185-2

[5] Expert Panel on Gastrointestinal Imaging; Chang KJ, Marin D, Kim DH, et al. ACR Appropriateness Criteria Suspected Small-Bowel Obstruction. J Am Coll Radiol. 2020;17(5S):S305-S314. https://doi.org/10.1016/j.jacr.2020.01.025

[6] Li Z, Zhang L, Liu X, Yuan F, Song B. Diagnostic utility of CT for small bowel obstruction: Systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019;14(12):e0226740. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0226740

[7] PMDA. ガストログラフイン経口・注腸用 添付文書(2021年5月改訂 第1版). https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/630004_7211001X1030_2_09

[8] Ceresoli M, Coccolini F, Catena F, et al. Water-soluble contrast agent in adhesive small bowel obstruction: a systematic review and meta-analysis of diagnostic and therapeutic value. Am J Surg. 2016;211(6):1114-1125. https://doi.org/10.1016/j.amjsurg.2015.06.012

[9] Gowell M, Baker DM, McLachlan G, et al. Water-soluble contrast agents in adhesional small bowel obstruction: meta-analysis and PRECIS-2 assessment of trials. BJS Open. 2025;9(3):zraf049. https://doi.org/10.1093/bjsopen/zraf049

更新ログ

  • 2026-04-27: 初版作成。