β遮断薬内服中のアナフィラキシーでは何に注意するか

このノートは研修医教育のための一般的整理であり、個別患者の診断・治療指示ではありません。緊急性が高い、判断に迷う、施設方針が関わる場合は上級医・専門科に相談してください。

クリニカルクエスチョン

β遮断薬内服中の患者がアナフィラキシーを起こしたとき、通常対応と比べて何に注意し、アドレナリン反応不良やグルカゴン使用をどう考えるか。

まず結論

  • β遮断薬内服中でも、アナフィラキシーを疑ったら最優先はアドレナリン筋注であり、抗ヒスタミン薬やステロイドを待って遅らせない[1,3,4]。
  • β遮断薬は、頻脈を目立ちにくくし、気管支拡張・心拍出増加などのβ作用を弱め、アドレナリンへの反応不良や重症化と関連する可能性がある[2,7,8]。
  • 2回の適切なアドレナリン筋注、体位、酸素、輸液後も気道・呼吸・循環が不安定なら「反応不良」と考え、救急・集中治療・麻酔科などの支援を早く呼ぶ[3,4]。
  • β遮断薬内服中の反応不良例では、グルカゴンがβ受容体を介さず心収縮・心拍を支える補助薬として国際的に検討される。ただし根拠は主に症例報告・ガイドライン推奨で強くはない[3,6,9]。
  • 日本での注意として、グルカゴンGノボの添付文書上の効能・効果に「アナフィラキシー」は含まれない。使用する場合は適応外使用として、禁忌、嘔吐、血糖変動、カリウム変動、施設プロトコルを確認する[5]。
  • β遮断薬を自己判断で中止させない。退院後は原因検索、再発予防、エピペン適応、β遮断薬継続のリスク・ベネフィットを主治医、循環器、アレルギー専門医で再評価する[8]。

β遮断薬内服中アナフィラキシーの判断フロー

判断の型

  1. まずアナフィラキシーとして扱う。 皮膚症状が乏しくても、急な気道・呼吸・循環障害があれば除外しない[1,3]。
  2. 内服薬を確認する。 β遮断薬、ACE阻害薬、抗凝固薬、降圧薬、喘息治療薬を確認する。点眼β遮断薬も見落とさない。
  3. アドレナリン反応を時間で見る。 筋注後の呼吸、血圧、意識、SpO2、喘鳴、皮膚所見を再評価し、改善が乏しければ反復投与と支援要請を早める[3,4]。
  4. 反応不良なら「投与不足・別疾患・β遮断薬影響」を同時に考える。 筋注部位、投与量、静脈路、輸液量、気道浮腫、気管支喘息、心原性ショック、敗血症、薬剤性低血圧を点検する。
  5. グルカゴンは補助薬として位置づける。 アドレナリンの代替ではなく、β遮断薬内服中でアドレナリン反応不良の循環不全が続くときに、上級医判断で検討する[3,6,9]。

初期対応

  • ABCDEを声に出して再評価する。 気道浮腫、嗄声、喘鳴、低酸素、ショック、意識障害があれば重症として扱う。
  • アドレナリン筋注を遅らせない。 成人では大腿前外側への筋注を基本にし、改善が不十分なら反復を検討する[1,3,4]。
  • 体位、酸素、モニター、静脈路、輸液を同時に進める。 仰臥位または下肢挙上を基本にし、呼吸苦や嘔吐が強い場合は安全な体位を選ぶ。
  • β遮断薬内服中は頻脈が乏しいことがある。 「頻脈がないからショックではない」と判断しない。
  • 2回のアドレナリン筋注でもABCが安定しない場合は早く応援を呼ぶ。 IVアドレナリン持続投与、昇圧薬、気道確保、ICU管理は経験者・施設プロトコル下で行う[4]。

鑑別・見逃し

優先度疾患・状態見逃さない理由手がかり
気道浮腫・喉頭浮腫急速に挿管困難化する嗄声、吸気性喘鳴、流涎、会話困難
重症気管支攣縮・喘息合併β遮断薬で気管支拡張反応が悪いことがある喘鳴、呼気延長、SpO2低下、既往
アドレナリン反応不良のアナフィラキシー循環虚脱が進行する筋注後も低血圧、意識障害、冷汗
心原性ショック・急性冠症候群アドレナリンやアナフィラキシーと症状が重なる胸痛、心電図変化、肺水腫、心疾患
敗血症・出血性ショックアレルギー所見が乏しいと誤る発熱、感染巣、出血、乳酸上昇
薬剤性低血圧・迷走神経反射徐脈・低血圧が目立つ処置直後、蒼白、徐脈、皮膚粘膜症状なし

検査

検査目的注意点
血糖グルカゴン使用時、意識障害、低血糖鑑別グルカゴンは血糖変動を起こし得るため経時的に見る[5]
電解質・血液ガス・乳酸ショック、代謝性アシドーシス、K変動の把握治療を待たせる検査にしない
心電図・心筋逸脱酵素心疾患、アドレナリン副作用、β遮断薬背景の確認胸痛、虚血性心疾患、高齢者では特に確認
トリプターゼアナフィラキシー診断補助、後日の専門評価採血しても急性期治療は遅らせない。急性期とベースライン比較が有用[8]
原因候補の記録再発予防、紹介時の情報整理食物、薬剤、造影剤、蜂毒、運動、NSAIDs、感染を時系列で残す

反応不良時の見逃し・検査・治療アルゴリズム

治療・マネジメント

  • アドレナリンが第一選択。 β遮断薬内服中でも「効きにくいかもしれない」ことを理由に投与を遅らせない[1,3,4]。
  • 非選択性β遮断薬では特に注意する。 PMDA添付文書では、非選択性β遮断薬との併用で相互の効果減弱、血圧上昇、徐脈が起こり得るとされる[2]。
  • 反応不良ではアドレナリン持続投与と輸液を考える。 反復筋注のみで粘りすぎず、経験者のもとで静注薬管理に移る準備をする[4]。
  • グルカゴンは「β遮断薬内服中の反応不良例」の補助選択肢。 成人では国際資料で1-5 mgを5分程度で静注し、その後5-15 μg/分の持続投与を考慮する記載があるが、施設プロトコルと上級医判断を優先する[6,9]。
  • グルカゴン使用時の注意。 嘔気・嘔吐、血糖上昇後の低血糖、高血糖、カリウム変動、アナフィラキシー、血圧変動に注意する。褐色細胞腫またはパラガングリオーマの患者・疑いでは禁忌である[5]。
  • 日本での注意。 グルカゴンGノボの効能・効果は、消化管検査前処置、低血糖時の救急処置、成長ホルモン分泌機能検査、肝型糖原病検査、胃内視鏡的治療前処置であり、アナフィラキシー治療は添付文書上の効能・効果ではない[5]。
  • 抗ヒスタミン薬・ステロイドは補助。 皮膚症状や遷延症状への補助であり、気道・呼吸・循環障害を改善する主治療として扱わない[3,4]。
  • 退院時は再発予防までセット。 原因候補、救急受診基準、エピペン適応、使用訓練、β遮断薬継続の再評価、専門外来紹介を確認する[1,8]。

図解

β遮断薬内服中アナフィラキシーの判断フロー

反応不良時の見逃し・検査・治療アルゴリズム

β遮断薬内服中の薬剤注意と患者説明

指導医に確認するポイント

  • アドレナリン筋注の投与量、投与間隔、反復回数は適切か。
  • 反応不良として、救急・ICU・麻酔科・アレルギー専門医へ応援要請する段階か。
  • IVアドレナリン持続投与、追加昇圧薬、気道確保を誰が管理するか。
  • β遮断薬の種類は非選択性か、心不全・虚血性心疾患など中止リスクが高い背景はあるか。
  • グルカゴンを使う場合、施設内の適応外使用手順、禁忌、調製、投与経路、モニタリング、制吐薬、血糖・K確認をどうするか。
  • 退院後のエピペン処方、原因検索、β遮断薬継続可否の相談先をどう設定するか。

患者説明

  • 「今回の反応は、急に血圧や呼吸が悪くなるアレルギー反応として扱います。まずアドレナリンを早く使うことが重要です。」
  • 「β遮断薬を飲んでいると、アドレナリンの効き方が弱く見えたり、脈拍の変化が分かりにくいことがあります。」
  • 「必要時には追加の薬を使うことがありますが、施設の手順に沿って血糖や吐き気などを確認しながら行います。」
  • 「β遮断薬は心臓の病気で大切な薬のことがあるため、自己判断で中止せず、主治医と専門医で今後の方針を相談します。」

β遮断薬内服中の薬剤注意と患者説明

ピットフォール

  • β遮断薬内服中の「頻脈がないショック」を軽く見る。
  • アドレナリン反応不良を恐れて、最初のアドレナリン筋注まで遅らせる。
  • 皮膚症状がないためアナフィラキシーを除外する。
  • 反応不良例で、筋注反復だけで時間を使い、IVアドレナリン持続投与や気道確保の支援要請が遅れる。
  • グルカゴンをアドレナリンの代替薬として扱う。
  • グルカゴンの嘔吐、血糖変動、禁忌、適応外使用の確認を忘れる。
  • 退院時に原因検索、エピペン訓練、β遮断薬継続可否の再評価をつなげない。

関連ノート

  • 関連ノート候補: アナフィラキシーの初期対応
  • 関連ノート候補: アドレナリン筋注の使い方
  • 関連ノート候補: エピペン処方と患者指導
  • 関連ノート候補: 造影剤アレルギーの対応
  • 関連ノート候補: 蜂刺傷とアナフィラキシー

MOC更新候補

  • MOC|救急・初期対応
  • MOC|薬剤・処方・副作用.md(本サイト外)
  • MOC|膠原病・免疫・アレルギー.md(本サイト外)

参考文献

[1] 日本アレルギー学会Anaphylaxis対策委員会. アナフィラキシーガイドライン2022. 2022/2023. https://www.jsaweb.jp/uploads/files/Web_AnaGL_2023_0301.pdf

[2] PMDA. アドレナリン注0.1%シリンジ「テルモ」添付文書. 2026年3月改訂. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/470034_2451402G1040_1_06

[3] Cardona V, Ansotegui IJ, Ebisawa M, et al. World Allergy Organization anaphylaxis guidance 2020. World Allergy Organization Journal. 2020;13(10):100472. https://doi.org/10.1016/j.waojou.2020.100472

[4] Resuscitation Council UK. Emergency treatment of anaphylaxis: Guidelines for healthcare providers. May 2021. https://www.resus.org.uk/library/additional-guidance/guidance-anaphylaxis/emergency-treatment

[5] PMDA. グルカゴンGノボ注射用1mg(添付溶解液あり)添付文書. 2023年11月改訂. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/620023_7229402D1036_1_09

[6] Boyce JA, Assa’ad A, Burks AW, et al. Guidelines for the Diagnosis and Management of Food Allergy in the United States: Report of the NIAID-Sponsored Expert Panel. Journal of Allergy and Clinical Immunology. 2010;126(6 Suppl):S1-S58. https://doi.org/10.1016/j.jaci.2010.10.007

[7] Tejedor-Alonso MA, Farias-Aquino E, Pérez-Fernández E, et al. Relationship Between Anaphylaxis and Use of Beta-Blockers and Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors: A Systematic Review and Meta-Analysis of Observational Studies. Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice. 2019;7(3):879-897.e5. https://doi.org/10.1016/j.jaip.2018.10.042

[8] Golden DBK, Wang J, Waserman S, et al. Anaphylaxis: A 2023 practice parameter update. Annals of Allergy, Asthma & Immunology. 2024;132(2):124-176. https://doi.org/10.1016/j.anai.2023.09.015

[9] Pouessel G, Turner PJ, Worm M, et al. Management of Refractory Anaphylaxis: An Overview of Current Guidelines. Clinical and Experimental Allergy. 2024. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11439156/

更新ログ

  • 2026-04-27: 初版作成。