救急外来で同時に複数患者が来たときトリアージをどう考えるか

このノートは研修医教育のための一般的整理であり、個別患者の診断・治療指示ではありません。緊急性が高い、判断に迷う、施設方針が関わる場合は上級医・専門科に相談してください。

クリニカルクエスチョン

救急外来で同時に複数患者が来たとき、緊急度と重症度を分けて考え、限られた人員・場所・検査資源の中で診療の優先順位をどう決めるか。

まず結論

  • トリアージは「受付順」ではなく、「いま介入しないと生命・四肢・臓器に害が出るか」を優先して並べ替える作業である。日本では JTAS など施設の院内トリアージ基準に沿って運用する[1,2]。
  • 最初に見るのは診断名ではなく、生理学的危険である。気道、呼吸、循環、意識、体温・外表を ABCDE で短く見て、危険なら診察順を待たせず人を呼ぶ[3]。
  • 「緊急度」と「重症度」は別に考える。緊急度は待てる時間、重症度は必要資源・入院リスク・経過観察の濃さである。ESI も acuity と resource needs で5段階化する[4]。
  • 一度決めた順位は固定しない。待機中の痛み増悪、SpO2低下、意識変容、バイタル悪化、家族・看護師の違和感があれば再評価して順位を上げる[2,5]。
  • 複数患者が同時に来たら、研修医は「誰を先に診るか」だけでなく、「誰に応援を呼ぶか」「どこに移すか」「何を先に測るか」「待機患者を誰が再評価するか」まで声に出す。
  • 薬剤・用量が主題のCQではないため、PMDA・添付文書の個別薬剤情報は直接の対象外である。ただし蘇生、鎮痛、鎮静、抗菌薬などに進む場合は日本の添付文書、院内採用薬、施設プロトコルを確認する。

同時来院時のトリアージ概念図

判断の型

  1. 危険な生理を先に拾う
    受付情報、第一印象、バイタル、SpO2、意識、皮膚色、呼吸努力、出血、疼痛の訴えを見て、ABCDE のどこが破綻しそうかを数十秒で把握する[3]。
  2. 緊急度を決める
    「何分待てるか」を考える。気道閉塞、呼吸不全、ショック、意識障害、胸痛・脳卒中疑い、敗血症疑い、大出血・重症外傷は待たせない[3,6]。
  3. 重症度と必要資源を見積もる
    ICU・入院の可能性、画像・採血・心電図・処置・専門科相談の必要性、モニターや隔離の要否を見積もる。ESI はこの「資源需要」を緊急度と組み合わせる考え方である[4]。
  4. 役割を割り振る
    最重症を一人で抱え込まない。看護師、上級医、救急外来看護責任者、検査部門、専門科に早めに共有し、待機患者の再評価担当も決める。
  5. 再評価で順位を更新する
    トリアージは単回判定ではなく、待機中の状態変化を拾うプロセスである。院内トリアージ実施料の施設基準関連資料でも、初回評価後の再評価を含む流れが求められている[2]。

初期対応

  • 全体を見渡す: 救急車、独歩、車椅子、付き添い、待合室、処置室の人数を把握し、受付・看護師から「誰が一番危ないか」を聞く。
  • 第一印象で赤を拾う: 話せない、座位保持困難、努力呼吸、チアノーゼ、冷汗、蒼白、活動性出血、けいれん、意識障害、激痛、突然発症を優先する。
  • 最低限の測定を早く取る: SpO2、血圧、脈拍、呼吸数、体温、意識、血糖、12誘導心電図は、症状に応じて診断前に優先する。
  • 場所を変える: 危険な患者は待合から処置室、モニター下、蘇生スペースへ移す。感染症疑いでは隔離・動線も同時に考える。
  • 応援を呼ぶ基準を低くする: 気道、呼吸、循環、意識の異常、複数の赤信号、診療スペース不足、待機患者が見きれない状況では、早めに上級医と責任者へ報告する。
  • 記録する: 来院時刻、評価時刻、主訴、バイタル、トリアージ区分、判断理由、再評価時刻、患者・家族への説明を簡潔に残す[2]。

鑑別・見逃し

優先度疾患・状態見逃さない理由手がかり
気道閉塞・アナフィラキシー・重症喘息数分で低酸素、心停止へ進みうる話せない、吸気性喘鳴、努力呼吸、SpO2低下、膨疹、顔面浮腫
ショック血圧が保たれていても代償性ショックのことがある冷汗、頻脈、末梢冷感、意識変容、尿量低下、乳酸上昇
急性冠症候群・致死的不整脈時間依存性に予後が変わる胸痛、冷汗、失神、心電図異常、既往リスク
脳卒中・くも膜下出血再灌流、血圧管理、専門治療の時間制限があるFAST陽性、突然の片麻痺、構音障害、最悪の頭痛、意識障害
敗血症初期認識と蘇生開始の遅れが害になる発熱または低体温、頻呼吸、意識変容、低血圧、感染巣、免疫抑制
大出血・重症外傷見た目以上に出血・臓器損傷が進むことがある高エネルギー外傷、抗凝固薬、腹痛、骨盤痛、外出血、意識変容
小児・高齢者・妊産婦・免疫抑制症状が非典型で、悪化が早いことがあるいつもと違う、摂食不良、活動性低下、転倒、発熱なしの感染
精神症状に見える身体疾患興奮・不穏の裏に低酸素、低血糖、頭蓋内疾患があるSpO2低下、血糖異常、頭部外傷、薬物、発熱、神経所見

見逃しを減らす初期アルゴリズム

検査

検査目的注意点
バイタル再測定トリアージ区分の妥当性と悪化の確認「測ったから終わり」ではなく、待機中の再評価時刻を決める
SpO2・呼吸数呼吸不全、敗血症、肺塞栓、心不全の拾い上げ呼吸数は重症度を反映しやすいが記録漏れしやすい
血糖意識障害、けいれん、脱力、精神症状の鑑別低血糖は診断前に補正が必要になることがある
12誘導心電図ACS、不整脈、高K血症などの迅速評価胸痛、失神、呼吸困難、上腹部痛、高齢者では早めに取る
採血・血液ガス・乳酸ショック、敗血症、代謝異常、重症度評価採血待ちで蘇生、酸素、モニター、応援要請を遅らせない
画像検査脳卒中、外傷、肺炎、気胸、肺塞栓などの評価画像室へ出す前に搬送耐性、モニター、同伴者を確認する
感染対策評価発熱・呼吸器症状・流行状況に応じた隔離JTAS2023では新興感染症など特別な病態も扱う[1]

治療・マネジメント

  • 最重症には「診断確定前の安定化」を優先する: 酸素、気道確保準備、モニター、静脈路、輸液・止血・除細動準備など、ABCDE に直結する介入を上級医と並行して進める[3,7]。
  • 優先順位を言語化する: 「Aさんはショック疑いで処置室、Bさんは胸痛で心電図先行、Cさんは待合で15分後再評価」のように、チームが同じ地図を持つ形にする。
  • 資源を詰まらせない: CT、採血、ベッド、モニター、隔離室が少ないときは、重症度だけでなく時間依存性の高い患者を先に通す。
  • 待機患者の安全を設計する: 待合で待つ患者には、悪化時にすぐ知らせる症状を伝え、再評価担当と時刻を決める。
  • 日本での注意: 院内トリアージは診療報酬上も、施設基準、説明、記録、再評価の流れが関わる。算定目的ではなく安全目的の仕組みとして、施設の基準に従う[2]。
  • 薬剤・用量の注意: 本CQはトリアージの考え方が主題であり、特定薬剤の推奨や用量は扱わない。実際に鎮痛、鎮静、抗菌薬、抗凝固薬、昇圧薬などを使う場合は、PMDA情報、添付文書、院内採用薬、腎機能、妊娠、小児・高齢者、禁忌を確認する。

図解

同時来院時のトリアージ概念図

見逃しを減らす初期アルゴリズム

緊急度と重症度の比較

指導医に確認するポイント

  • この施設の院内トリアージ分類、再評価間隔、記録テンプレート、責任者への報告基準。
  • 複数患者が同時に来たとき、研修医が独断で処置室へ移してよい基準と、必ず上級医確認が必要な基準。
  • 救急車、独歩、紹介患者、発熱患者、精神症状患者、小児・妊産婦が重なったときのローカルルール。
  • CT、心電図、採血、モニター、隔離室、蘇生スペースが競合したときの優先順位。
  • 待合室で悪化した場合の再トリアージ、インシデント報告、家族説明の流れ。

患者説明

  • 「救急外来では、来られた順番だけでなく、命や臓器への危険が近い方から診療することがあります。」
  • 「待っている間に息苦しさ、胸痛、意識がぼんやりする、強い痛み、出血、しびれや麻痺が出た場合は、すぐスタッフに知らせてください。」
  • 「今の評価では少し待っていただける状態と判断していますが、状態は変わることがあるため、必要に応じて再度確認します。」
  • 「順番が前後することがありますが、重症の方を早く見つけるための仕組みです。」

ピットフォール

  • 受付順に引きずられる: 先に来た軽症患者を診ている間に、後から来た呼吸不全やショックを待たせる。
  • 診断名を当てに行きすぎる: トリアージ段階では、診断確定より「危険な生理」を拾う方が重要である。
  • 血圧だけで安心する: 若年者や代償期ショックでは血圧が保たれる。頻脈、末梢冷感、呼吸数、意識、乳酸に注意する。
  • 痛みを軽視する: 激しい胸痛、頭痛、腹痛、背部痛、精巣痛、四肢虚血痛は、バイタルが安定していても時間依存性疾患を含む。
  • 待機患者を再評価しない: 最初に低緊急度でも、待機中に悪化すれば優先順位は変わる。
  • 高齢者・小児・妊産婦・免疫抑制を通常成人と同じ感覚で見る: 非典型症状や急変を前提に、閾値を下げて相談する。
  • 制度と安全を混同する: 診療報酬上の院内トリアージ実施料は制度の一部であり、臨床安全としてのトリアージ判断を置き換えるものではない。

関連ノート

  • 関連ノート候補: ABCDE・一次評価
  • 関連ノート候補: ショックを疑ったとき初期対応をどう進めるか
  • 関連ノート候補: 救急外来で胸痛をどう初期評価するか
  • 関連ノート候補: 意識障害を見たとき最初に何を確認するか

MOC更新候補

参考文献

[1] 日本救急医学会, 日本救急看護学会, 日本小児救急医学会, 日本臨床救急医学会, 日本在宅救急医学会 監修. 緊急度判定支援システム JTAS2023ガイドブック 第3版. へるす出版; 2023. DOI: https://doi.org/10.32209/9784867190623

[2] 厚生労働省. 診療報酬の算定方法: B001-2-5 院内トリアージ実施料. https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=84aa9729&dataType=0

[3] World Health Organization, International Committee of the Red Cross. Basic Emergency Care: approach to the acutely ill and injured. 2018. https://www.who.int/publications-detail-redirect/9789241513081

[4] Gilboy N, Tanabe P, Travers DA, Rosenau AM, Eitel DR. Emergency Severity Index, Version 4: Implementation Handbook. Agency for Healthcare Research and Quality. https://esitriage.org/handbook.asp

[5] Hinson JS, Martinez DA, Cabral S, George K, Whalen M, Hansoti B, Levin S. Triage Performance in Emergency Medicine: A Systematic Review. Ann Emerg Med. 2019;74(1):140-152. https://doi.org/10.1016/j.annemergmed.2018.09.022

[6] World Health Assembly. Emergency care systems for universal health coverage: ensuring timely care for the acutely ill and injured. WHA72.16. 2019. https://www.who.int/publications/i/item/WHA72.16

[7] 日本蘇生協議会. JRC蘇生ガイドライン2020. https://www.jrc-cpr.org/jrc-guideline-2020/

更新ログ

  • 2026-04-27: 初版作成。